事業所Y社は経営状況が悪化していた。
経営立て直しの改善策としてY社は従業員の労働稼働率の向上を検討した。
そこで、Y社の労働組合と交渉し、労働稼働率80％以上の従業員のみに賃上げ等を行うこととした。

Y社は賃上げをする際の労働稼働率の計算において、欠勤・遅刻早退の他に、年次有給休暇・生理休暇・慶弔休暇・産前産後休業・育児時間・労働災害による休業通院・組合活動に関する休暇なども不就労日として計算。
稼働率80％に満たない者に賃上げを行わなかったほか、これに対応する賞与や退職金も支払いをしなかった。
これに対して、労働者Xさんらが賃金差額の支払いを求めて訴えた事例。

法理論で読みこむと、興味深い判例です。
どういう判旨かと言うと、まずは問題になっている「80％規定」は違法ではないと断言しています。その上で「無効」としているわけです。
その理由は適法であるにもかかわらず「公序に反する」からです。
違法ならば、その部分は無効で法律の定めによるであれば簡単に理解できますが、適法であるにも関わらず無効になるとはどういう事でしょうか。

民法を学んだことがあれば、すんなりと理解できると思います。
民法90条で「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」としています。
つまり、適法であれば何でも通るわけではなく「公の秩序・善良の風俗」に反しては駄目。
適法であっても「無効とする」という事です。
これを「公序良俗」と言い、「信義則」とあわせて民法の基本理念の一つです。

この判例では、80％規定自体に違法性はないものの、算定において労働基準法等で保証する休暇まで不就労に算入すると、労働基準法や労働契約法で保証している権利の放棄を招きかねないので「公の秩序」に反して無効としているわけです。
したがって、判決全文を読むと、全ての休暇・休日を包括して無効とした前審は間違いとして差し戻したわけです。
規定そのものは適法な規則なので、不就労と換算することが公序良俗に反する休暇・休日のみを無効とすべきという事です。

判例を知っていれば、この様な法理論が問われる問題も簡単に正解できますが、内容を知らない判例を基にした出題に備えて理解しておきたいポイントですね。